当時の知識人のナマな生態がわかる『日東壮遊歌』 その2

朝鮮通信使一行の道中記である『日東壮游歌 ハングルでつづる朝鮮通信使の記録』。釜山港までの陸路往復で官吏の世話をしたのは茶母(タモ)だったことが記されています。注意書きによると妓生と茶母との区別があいまいだったとのこと。たしかに両者がごっちゃになっている部分が見られます。そして、これらの女性がらみのエピソードがとってもリアルなんです。たとえば・・・

★「美人の茶母をオレの担当にしてよ!」と頼みまくっている軍官をだましてやろうと、美しくない妓生を選び、「一番の美女を用意しといたぜ!」といたずらした

★ある妓生から「娘を奴婢から解放してほしい」と頼まれて調べたら、すでに他の仲間の茶母になっていたので、まだ15歳のその娘の身を守ってやろうと自分の担当に変え、県監に解放を頼むと金銭を要求された

★仲間の一人は身持ちの悪い妓生におぼれ、各地でもらったお金を全部つぎこんだ

★「キレイどころの茶母をあてがってよ」とある通訳官に頼まれて用意してやったら、その茶母がとてもしたたかで、「今日は父の祭祀の日だからお仕えできません」と泣かれて外出を許したら逃げられた

★その通訳官は別の茶母にも「母の祭祀の日なのですオヨヨ~」と泣かれて騙された

などなど・・・。現代の感覚からすると「女性蔑視!けしからん!」ですが、当時の男どものリアルな感覚がよく伝わってきます。泣かれると弱い通訳官というのも、ドラマの脇役のエピソードになりそうで、とてもおもしろいですよね。

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ちなみに著者である金仁謙の性格は、ズバリ表すなら融通のきかない堅物。自分の部屋で待っていた茶母に手をつけず、同僚からも「おかたいねー」と評されていました。そのかわり「何かあったときに正しいことを言ってくれる人」とも評価されていた気配がします。

私のレビューの内容は特定の分野に偏っており(というか「お前の感想は茶母ばなしかいっ!?」とつっこまれても仕方ありません)、全体からするとかなり些末です。異国の人が日本をようすを描くいきいきとした筆致nにも引き込まれますし、実は道中ではいろんな事件も起こっていますが、Amazonやwikiに紹介されていますのでそちらに譲ります。

その他、印象に残った点としては、各地で出される食事の描写や評価も興味深く、食にはうるさいおじさまだったのだなと感じます。通信使一行の一日の食費は銀一万両だったとか。また、日本の発展に感嘆しつつも恨めしがったり倭人をけなしたりする一方で、礼儀正しい人や涙を流して見送ってくれる人のことは素直に称賛しています。贈答にも原則を通しぬく、お堅い人だったようです。

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